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(もしサカ)その声援を背に [もしサカ]

【もしもサッカースタジアムに誰かを連れて行ったら】【3話】

 夕陽が吸い込まれた。一瞬そう思った。
 テルの放ったシュートがリングをかすることなく、ネットを揺らしてコートに落ちる。どことなくコートを跳ねるボールさえも堂々としていて、ちょっとだけムッとする。
 「ま、こんなもんだ」
 小学6年にして10本連続フリースローを決めるのだから、もう少し自慢げにしてもいいだろうに、そんなことはなんでもないというような笑顔がそこにあった。怒っているのも馬鹿馬鹿しくなり、自然とため息が出る。
 「あのなあ、テル。こんなん見本にならないよ」
 「え、なんで?」
 心底、不思議そうだ。 
 「入れー、って念じてリング目掛けて投げりゃ入るだろ」
 「これだから天才肌は・・」
 やれやれと思うが、おそらくこうなるだろうとわかっていながらシュートを教えて貰ったのだから仕方ない。
 「にしてもさあ」
 いつの間にかボールを拾って戻って来たテルがフリースローのラインに立ち、無造作にシュートを打つ。今度はリングに当たって少し跳ねたが、それでも枠の中に収まった。
 「西小の奴らから対決挑んで来たんだろ」

 昨日の話だった。
 日課にしている公園での放課後練習をやっていると、突然、同学年に見える3人組が声をかけて来て、勝負しようという流れになったのだ。1年近く公園で練習しているが、声をかけられたのは初めてのことで、カツアゲでもされるのかと内心ではびびった。
 それでも無視するとかえって面倒と思い、5本勝負のフリースロー対決に応じたところ、こっちが3本、相手が2本で、こっちの勝ちとなったのだった。自分の決定率はそんなものなので、相手に救われた勝ちとも言える。
 正直、ほっとしたが相手は不満だったようで、明日、つまり今日もう一度、今度は向こうの指定した場所で再戦することになったのだ。
 「けど、自分らからフっかけといて、負けたからホームで勝負ってなあ。男らしくねー奴ら」
 「・・やっぱり、出向いて行ったらボコられるのかな」
 呼び出しは口実で、実は自分たちのテリトリーにカモを呼び寄せる作戦なのかもしれない。
 「ま、なくはない」
 「なんでそんな冷静なんだよ」
 「だって、オレ、ケンカで負けたことねーし」
 テルは自分から手を出したことはないが、売られたケンカは全て買い、負けたのを見たことはない。
 結局のところ相手の思惑がどうであれ、一度絡んでしまった以上、行かないというわけにもいかず、最悪の場合はテルに頼ることになるだろう。
 「あーあ、うまく引き分けに持ち込んだ方がいいかなあ」
 「勝負は勝たなきゃダメだろ」
 「でも、こっちが2本、相手が3本だったら引き分けだし」
 「そんときは延長サドンデス。同点ならアウェーゴールでこっちの勝ちだから、アウェーで3本決めれば勝ちだけどな」
 「なんだよ、アウェーゴールって」
 「え、知らない? サッカーじゃ有名なんだけど。相手ンところでたくさん点取った方がエラいんだよ。今のところ3-2でオマエがリード・・って、あっ、アントラーズと一緒だ」
 テルがそのサッカーチームを応援していることは知っていた。今年は調子がいまひとつのようで、日曜に遊ぶと不機嫌なこともたびたびあったのだが、今の嬉しそうな顔からすると、いいことがあったのかもしれない。

 「けどなあ・・テルが代わりにやってくれたら、あっさり勝っておしまいなんだけど」
 「バーカ、勝負を挑まれたのはオ・マ・エ。オレは応援する側。ま、大丈夫だ。オレが応援すりゃ、オマエもヨユーで勝てるって」
 「簡単に言うなよ・・」
 「ってわけで、勝ったら今度は一緒にアントラーズの応援な。週末、ナビスコっていう大会の大事な試合があるんだ」
 「オレ、サッカー知らない。バスケ専門」
 「ヘーキ、ヘーキ。たくさん相手ゴールにボール入れた方が勝ちだから。オマエも勝つよ」
 「なんだその投げやりな説明! あと、テキトーだし!」
 ツッコミながらも、テルの言葉は何故だか心強く胸に響いていた。
 5本勝負で全部決めるのは無理かもしれないが、サドンデスになってもテルが応援してくれれば、ずっと決まるように思えてきた。
 「・・しゃーねーな。行ってもいいけど、オレが勝ったらだからな」
 「お、じゃあ決まりだな。チケット買わなきゃ」
 テルは早くも駆け出している。
 「気ぃ、はえーって」
 素直すぎる行動力には呆れたが、本音を言えば同じことを考えていた。

 そうだな、こんな勝負さっさと片付けよう。
 そして、テルと一緒に今度はアントラーズを応援するのも悪くない。きっと勝つだろう。

 どこからともなく流れて来た喧騒が、まるで勝利を祝う歓声のように、頭の中で心地よく鳴り響いていた。

(この話はフィクションです)

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